末梢性顔面神経麻痺
顔面神経麻痺が発症した場合、耳鼻咽喉科や神経内科またはペインクリニックを受診されることが殆どです。
顔面神経麻痺には大きく分けると中枢性と末梢性に分けられ、鍼灸の施術をする場合の殆どが末梢性になります。
日本人では5万人/年と多くの方が罹患し発症しております。
これまで、顔面神経麻痺については、現在の日本顔面神経学会の前身である日本顔面神経研究会が2011年に「顔面神経麻痺診療の手引き－Bell麻痺とHunt症候群－2011年版」を出しておりました。
その中で鍼灸についての記載があり「効果が無い」となっておりました。
しかし、2023年にガイドラインが改訂され、日本顔面神経学会より「顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版」がリリースされました。
その中の治療のフローチャートに「鍼治療」が入り、クリニカルクエスチョン（CQ）に末梢性顔面神経麻痺に鍼治療が「弱く推奨する」と記載されました。
※推奨決定：「強い推奨（行う）」＞「弱い推奨（行う）」＞「弱い推奨（行わない）＞「強い推奨（行わない）」
CQ4-2 末梢性顔面神経麻痺（Bell麻痺、Hunt症候群、外傷性麻痺）に鍼治療は有効か？
1）顔面神経麻痺（Bell麻痺、Hunt症候群、外傷性麻痺）患者への顔面神経麻痺治癒のため、急性期に鍼治療を行うことを弱く推奨する。
2）後遺症が出現した慢性期の顔面神経麻痺（Bell麻痺、Hunt症候群、外傷性麻痺）患者に対し、鍼治療を行うことを弱く推奨する。
この事は鍼灸にとってかなり大きな出来事で、医療の中での顔面神経麻痺に対する鍼灸の施術の推奨度が上がりました。
顔面神経麻痺の標準治療
発症が疑われる場合は、必ず医療機関を受診し医師の診断を受けた上で適切な治療が必要です。
現在の所、第一選択としてはステロイドや抗ウイルス薬の投与が標準治療になります。
なぜ、医療機関を受診する必要があるのかですが、顔面神経麻痺は大きく分けて「中枢性」と「末梢性」の2つに分けられます。
中枢性の場合は、上位の医療機関への紹介となります。
末梢性の場合、速やかに標準治療を開始することが重要です。
末梢性顔面神経麻痺の内、「Bell麻痺」や「Hunt症候群」で約80％を占めます。
末梢性顔面神経麻痺治療の考え方
従来の考え方
・早く神経再生を促進する
・神経再生を促せば麻痺は回復する
・再生促進は支配筋の収縮であり、随意的な筋収縮か低周波通電による筋収縮が行われる
・後遺症が認められた時点から低周波などの強い筋収縮は避ける
新しい考え方
・神経再生を抑制する
・麻痺の治療目的は病的共同運動の予防・軽減
・神経断裂繊維があると、筋収縮により断裂繊維の再生も促され、内膜も断裂されているため迷入再生が生じ、表情筋の過誤再生が起こる
・10点以下・ENoG値40％以下の麻痺は発症初期より強い筋収縮は避ける
急性期におけるリハビリ・セルフケア
・発症初期から10日間ほどは、角膜保護、ストレッチ指導、粗大運動の禁止、2週間くらいから開眼運動の指導。
末梢性顔面神経麻痺を呈する疾患
①Bell麻痺（60％）50歳代がピーク
②Hunt症候群（15％）20代や50～60代に多い
③頭頚部外傷性麻痺（6％）
④耳炎性麻痺（4％）
⑤手術損傷性麻痺（3％）
発症原因
単純ヘルペスウイルスⅠ型（HSV-1）
水痘帯状疱疹ウイルス（VZV）
上記のウイルスの再活性化によりウイルス性神経炎が有力となっている。
Bell麻痺・Hunt症候群
子ども時代に単純ヘルペスに罹患し治ってもそのウイルスが顔面神経の膝神経節にずっと潜伏している。
何かの要因で身体の免疫機能が低下した場合、潜伏しているウイルスが再活性。
顔面神経が通っている顔面神経管の中でウイルスが増殖し、顔面神経の浮腫が起こり、浮腫により神経が絞扼され虚血が起こる。
そういった悪循環により炎症が起こり顔面神経麻痺が発症する。
炎症により、直接的な神経損傷と絞扼性損傷の2つの要素があります。
Bell麻痺とHunt症候群を比べてみると、麻痺に関してはHunt症候群が強い傾向にあります。
その他、Hunt症候群は耳周辺に疼痛や発疹があり、難聴やめまい等耳症状が伴うことがあります。
神経損傷の段階分類
①脱髄 神経の表面を覆う髄鞘の損傷。3～4週間で回復する。
②軸索断裂 神経の軸索に損傷。3～4ヶ月で回復する。
③神経断裂 神経の完全断裂。完全回復が難しく、病的共同運動が発症しやすいため予防が重要。
当院での施術について
当院では、主にBell麻痺やHunt症候群の施術が中心です。
まず現状を把握し、重症度や予後予測をする柳原法と、重症度や後遺症評価をするSunnybrook法を採用しております。
施術の経過を見るための評価に関しては、患者さんご本人も一緒に月1回、確認しながらの評価となります。
柳原法（40点）
医療機関でのENoG（Electroneurography）検査を行っていましたら、そちらの結果も 評価の参考に取り入れております。
顔面の筋をしっかり捉えるように鍼を行います。お顔に関わる経絡のツボを手足で取り、頚肩周辺も緩めていきます。病的共同運動を助長するような粗大な筋運動が伴う鍼通電は、細かな管理をしないと迷入再生が起こりやすくなるため行いません。
当院では、直線偏光近赤外線治療器（スーパーライザーPX Type2）を導入しており、鍼灸施術と併用して星状神経節照射をお勧めします。
星状神経節照射により、全身の血流促進を促します。→詳細
ガイドラインに沿った自宅で出来るセルフケアを指導しながら行っており、出来る限り迷入再生による病的共同運動や顔面拘縮を予防軽減を目指します。
